足場を選ぶ際、「何となく」で決めていませんか?一見同じように見える足場でも、種類や特徴、用途はまったく異なっています。これらを正しく理解していないと、作業効率が落ちてしまったり、工事の完成度が下がったりしてしまうのです。
今回は、「足場の種類」や「足場の特徴」、「足場の使い分け」について徹底解説していきます。この記事を読んで、現場に合った足場を選べるようにしていきましょう。また記事の最後では、近年注目が集まっている足場についてもご紹介していきます。いち早く最新の足場を利用して、よりよい仕事をしていきましょう。
足場の種類
足場の種類は、以下7つです。
- 単管(鋼管)足場
- 単管ブラケット足場
- くさび式足場(くさび緊結式足場・ビケ足場)
- 枠組み(ビティ)足場
- 吊り足場
- 張り出し足場
- 移動式足場(ローリングタワー)
また、用途別・構造別に分類すると以下の表のように表せます。
支柱足場 吊り足場 その他 本足場
一側足場 棚足場
外壁工事用
・単管足場
・くさび式足場
・枠組み足場・ブラケット一側足場
・くさび式一側足場単管足場
・張り出し足場
・移動式足場内装工事用
・単管足場
・くさび式足場
・枠組み足場移動式足場
躯体工事用 ・単管足場
・くさび式足場
・枠組み足場・ブラケット一側足場
・くさび式一側足場吊り足場
(引用:日本建設業連合会)
ひとつひとつの足場について、さらに詳しくみていきましょう。
単管(鋼管)足場
「単管足場」とは、「単管」と呼ばれる直径48.6mmの鉄パイプをつなぎ合わせて組み立てる足場です。単管同士はクランプという金具をかみ合わせ、ボルトを締めて接合します。単管足場には、作業床となる板を敷かないため、2本のパイプの上に立って作業します。
単管足場の特徴
単管足場の特徴は以下の4つです。
- 狭い場所でも足場を組める
- 使う部材が少ないため、組み立てが簡単
- ホームセンターなどで部材が手に入る
- 強度と安全性が低い
単管足場の最大の特徴は、狭い場所でも組み立て可能なところです。単管を自由な場所でつなぎ、接合することで、現場に合った形に変化させられます。場合によっては、パイプを自由な長さに切断して継ぎ足せるので、職人の背丈に合わせて高さを調節することも可能です。
単管足場で使用する部材は、「単管・クランプ・固定ベース・ジョイント」と、ほかの足場に比べても少ないため、簡単に組み立てられる点も大きな特徴です。また、万一部材が足りなくなってしまっても、ホームセンター等ですぐに手に入れられます。
一方で、強度や安全性が低いという特徴もあります。単管足場には床がないので、足を滑らせる可能性も少なくありません。また、物を足場に置けないため、片手がふさがってしまう点も安全面に欠けます。
単管足場の使用場面
単管足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 隣の建物との間隔が狭い建物の工事
- 低層建物の塗装、建築工事
単管足場は高層の工事に適さないことを頭に入れておきましょう。
単管ブラケット足場
「単管ブラケット足場」とは、単管足場に、「ブラケット+アンチ」を追加した足場です。ブラケットという直角三角形型の部材と、アンチという足場用の床板を単管に固定することで、作業床ができます。
単管ブラケット足場の特徴
単管ブラケット足場の最大の特徴は、単管足場よりも安全性が高いところです。狭い場所で足場を組めるという単管足場の特徴に加え、床がつくことで安全性が高くなります。
一方で、設置・解体に時間がかかるという特徴もあります。ブラケットをひとつひとつ取り付けなければならない分、単管足場よりも工期が長くなることを認識しておきましょう。
単管ブラケット足場の使用場面
単管ブラケット足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 隣の建物との間隔が狭い建物の工事
- 地上15m程度の建物の塗装、建築工事
使用場面は単管足場とほぼ同じですが、単管ブラケット足場の方が安全性が高いため、最大15mほど(3階建て程度)の高さまで足場を組むことができます。
くさび式足場(くさび緊結式足場・ビケ足場)
「くさび式足場」とは、凹凸が付いた金具(くさび)をハンマーで打ち込み、部材同士を接続して組み立てる足場です。まず一定間隔で支柱となる鋼管を配置してから、水平材、斜材などを固定していきます。外壁塗装工事においてはくさび式足場が最も主流の足場です。
またこの足場は、1980年に「株式会社ダイサン」が開発したくさび式足場の商品名から「ビケ足場」と呼ばれることも多いので覚えておきましょう。
くさび式足場の特徴
くさび式足場の特徴は、以下の6つです。
- 作業しやすい
- 手早く設置、解体できる
- 耐久性が高く、コストパフォーマンスが高い
- 安全性が高い
- 狭所には設置できない
- ハンマーで叩いて固定するため騒音が発生する
くさび式足場で使用する部材はユニット化されているため、ハンマー1本で組み立てられます。そのため短期間で簡単に設置・解体できるのが、くさび式足場の最大の特徴です。また足場が安定しているため、単管足場よりも安全性が上がります。
一方で、くさび式足場を設置するには、ある程度のスペースが必要です。狭い場所には設置できないので注意しましょう。またすべての部材を金属ハンマーで組み立てるため、騒音が発生する点も注意しなければなりません。
くさび式足場の使用場面
くさび式足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 一般的な建物の工事
- 地上45mまでの建物で短期間行う工事
くさび式足場は、外壁塗装など短期間の使用に向いている足場です。したがって、高さのある建物に使用する際は、短期間の使用に限るようにしましょう。また、住宅密集地ではハンマー音に対する苦情が出る可能性もあるため、対策を講じてから使用するようにしましょう。
枠組み(ビティ)足場
「枠組み足場」とは、「門」の字の形に溶接された建枠に、ジャッキや筋交などの部材を組み合わせて立てていく足場です。現在最もオーソドックスな足場として使用されており、幅広い現場で重宝されています。もともと枠組み足場は、アメリカの「ビティスキャホード社」から輸入したものであるため、建枠や足場自体のことを「ビティ足場」と呼ぶこともあります。
枠組み足場の特徴
枠組み足場の特徴は、以下の6つです。
- 部材が軽量で扱いやすい
- 安全性が高い
- より高く組める
- 手早く設置、解体できる
- 騒音が少ない
- 搬入経路や資材置き場を広く確保する必要がある
枠組み足場の最大の特徴は、他の足場よりも高く組めるところです。クレーンを用いて大組みしていくことで、地上45m、15階建てまでの高層建築物に使用できます。また強度の高い部材を使用しているので、安全面も良好で、高所においても安心して作業できます。
一方で、枠組み足場は、大規模な足場なので設置スペースを要します。また、ひとつひとつの部材が大きいことから、搬入経路や資材置き場を広く確保しなければならない点に注意しましょう。
枠組み足場の使用場面
枠組み足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 地上45m、15階建てまでの高層建築物の工事
- 橋梁工事や建築工事
- 大規模修繕
一般的な住宅にはくさび式足場、それ以上の大きな建物には枠組み足場と使い分けるとよいでしょう。
吊り足場
「吊り足場」とは、建物の上部から吊り下げて設置する足場です。鉄骨の梁などに吊り材を設置することで作業床を支えます。
吊り足場の特徴
吊り足場の特徴は、以下の4つです。
- 地面がなくても設置できる
- 十分な広さのない場所でも設置できる
- 事故のリスクが高い
- 点検、確認作業に時間がかかる
吊り足場の最大の特徴は、足場を下から組み上げるのが困難な場所でも設置できるところです。たとえ下に川が流れていたとしても、鉄骨等に吊り下げるだけで設置できる便利さがあります。
一方で吊り足場は、落下のリスクが非常に高い足場です。そのため、たとえ時間がかかろうとも、設置作業・安全確認・安全点検は慎重に行わなければなりません。また現場には「足場の組立等作業主任者」を配置することになっていますので、必ずその決まりを守って足場を設置しましょう。
吊り足場の使用場面
吊り足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 橋梁工事
- 工場設備工事
- 溶接工事
吊り足場は、鉄骨造の大規模な建造物に使用することがほとんどです。
張り出し足場
「張り出し足場」とは、「張り出し材」と呼ばれる部材を建物自体に取り付け、その上に本足場を設置する足場です。張り出し材は、大きなブラケットのような構造になっていて、上に乗る本足場を一手に支えます。そのため、建物に取り付ける際は、アンカーボルトなど強力な道具を使って取り付けます。
張り出し足場の特徴
張り出し足場の最大の特徴は、足場を組めない場所で使えるところです。建物にベランダを取り付けるようなイメージで足場を取り付けられるので、地面の状態が不安定でも設置可能です。
一方張り出し材の取り付け部分には十分な強度が必要です。特殊な計算をして、慎重に設置することが求められます。
張り出し足場の使用場面
張り出し足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 隣の建物との間隔が狭い建物の工事
- 地面が凸凹しているなど悪条件の中での工事
先述のとおり、壁の強度が足りない建物では使用できないので注意しましょう。
移動式足場(ローリングタワー)
「移動式足場」とは、足場の下部にキャスターが付いていて、自由に移動させることができる足場です。基本的な構造は「枠組み足場」と同じで、そこに手すりや昇り降りのためのはしごを組み込んだ形をしています。この足場は、「ローリングタワー」と呼ばれる場合もあります。
移動式足場の特徴
移動式足場の最大の特徴は、一度組み上げれば移動も高さ調整も簡単にできるところです。場所を転々としながら作業できるので、天井や壁の仕上げ作業に適しています。
一方で、キャスターブレーキのかけ忘れが事故につながる可能性もあります。また、足場の上で脚立を使用したり、作業者を乗せたまま移動したりすると危険なので、注意点を守って使うようにしましょう。
移動式足場の使用場面
移動式足場に適した使用場面は以下のとおりです。
- 設備工事
- 配管工事
- 塗装工事
- 天井や壁などの仕上げ
躯体以外の工事で使用できます。
近年注目の足場
ここまでは従来の足場について解説してきました。ここからは、近年話題になっている2つの足場について解説していきます。段々とスタンダードになってきている足場なので、しっかり把握しておきましょう。
手すり先行足場
「手すり先行足場」とは、足場の設置・解体時に手すりを先行して取り付ける工法のことです。足場の全層に「二段手すり」と「幅木(つま先板)」を設置することにより、作業者の墜落を防止するほか、心理面の緊張状態を和らげることができます。手すり先行足場は、くさび式足場と枠組み足場を組む際に用いるのが一般的です。
ただし高く組めないため、低階層(3階程度)の建物に使用を限るほか、手すりで囲むため、部材の持ち込みに制限がかかる点に注意しましょう。
手すり先行足場は、厚生労働省からも推奨されている工法です。作業者の命を守るためにも、なるべく手すり先行で足場を組むよう心がけましょう。
次世代足場
「次世代足場」とは、これまで主流となってきたくさび式足場や枠組み足場の規格を、「安全面」「施工面」「管理面」から全面的に洗い直した次世代規格の足場の総称です。
枠組み足場が導入された半世紀前と比べ、現在は、作業者の平均身長が伸びているうえ、ヘルメットと安全靴の使用でさらに高さが必要になりました。そこで、従来の足場よりも広い空間で作業できる規格に作り変えられたのが次世代足場です。
また、これまでのくさび式足場は差し込むだけで、ロック機能が付いていなかったため、抜けてしまう危険性がありました。その点次世代足場は、抜け防止装置が付いているため、より安全に作業ができるようになっています。今後は、この次世代足場がスタンダードになっていく可能性が高いため、ぜひ率先して使用していってください。
まとめ
足場には以下のような種類があります。
- 単管(鋼管)足場
- 単管ブラケット足場
- くさび式足場(くさび緊結式足場・ビケ足場)
- 枠組み(ビティ)足場
- 吊り足場
- 張り出し足場
- 移動式足場(ローリングタワー)
一重に「足場」といっても、その特徴や用途はさまざまです。そのため、「何となく」で足場を選んでしまうと、作業効率が落ちたり、工事の完成度が下がったり、最悪の場合、人の命にも関わってしまいます。そうならないためにも、もう一度よく足場について理解し、適材適所の足場を選択できるようにしてください。
皆さまがよりよい仕事をしていけますように、心からお祈りしております。