高所作業が伴う足場工事において必須の安全帯ですが、安全帯は墜落制止用器具という名称に変更されたことはご存じでしょうか。
本記事では、墜落制止用器具の役割や特徴、価格について解説いたします。
「安全帯」から「墜落制止用器具」に変更
2019年2月1日の労働安全衛生法施行令の改正により、「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に変更されました。
それにより、2022年1月2日から「胴ベルト型(U字つり)」の安全帯は、墜落を制止する機能がないとして、高所作業で使用することができなくなりました。
現場で、「安全帯」、「胴ベルト」、「ハーネス型安全帯」などと呼ぶ分には問題ありません。
「墜落制止用器具」への名称変更(安衛令第13条)
安衛令第13条第3項第28号を改正し、「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る。)」を「墜落制止用器具」に改めます。また、本改正後「墜落制止用器具」として認められるのは、「胴ベルト型(一本つり)」と「ハーネス型(一本つり)」のみとなり、「胴ベルト型(U字つり)」の使用は認められません。
引用:厚生労働省
墜落制止用器具はフルハーネス型が原則
墜落制止用器具は、「胴ベルト型(一本つり)」と「ハーネス型(一本つり)」の2種類があります。
この2種のうち、「ハーネス型(一本つり)」を使用することが原則となります。
ただし、作業員が墜落時に地面に到達するおそれがある場合(高さが6.75m以下)は、「胴ベルト型(一本つり)」を使用することができます。
使用できる理由は、胴ベルト型の方が落下距離が短いからです。
ハーネス型の場合、ランヤードを背中の上部に取り付けます。対して胴ベルト型は腰にランヤードを取り付けます。
そのため、墜落してしまった時に、背中の上部から腰までの距離分、ハーネス型の方が落下距離が長くなります。
なので、6.75m以下の高さであれば胴ベルト型の墜落制止用器具を使用することができます。
要求性能墜落制止用器具の選定
2m以上の作業床がない箇所又は作業床の端、開口部等で囲い・手すり等の設置が困難な箇所の作業での墜落制止用器具は、フルハーネス型を使用することが原則となります。ただし、フルハーネス型の着用者が地面に到達するおそれのある場合(高さが6.75m以下)は、胴ベルト型(一本つり)を使用することができます。
引用:厚生労働省
改正の背景
かつて、建築業を中心に胴ベルト型の安全帯が主流で使用されていました。
しかし、胴ベルト型の安全帯は墜落を防いだ時の衝撃荷重や、救助されるまでの時間経過により、内臓や胸部にダメージを受けてしまうため、その危険性が指摘されていました。
ある実験結果によると、85kgの砂のうに安全帯を装着し、1.95mの高さから落とした場合、583kgもの衝撃荷重が発生することがわかりました。
そこで厚生労働省は、安全帯に関する専門家討論会を開催しました。
その結果、名称や範囲の変更、墜落に関する防止措置を強化するといった改正になりました。
墜落制止用器具の役割・特徴
墜落制止用器具の役割は、墜落による重大事故を防止することです。
なので、万が一墜落してしまった場合に衝撃加重を低減させる機能を有していなければなりません。
ハーネス型の具体的な構造の条件は以下の通りです。
- 墜落を制止する時に、着用者の身体に生じる荷重を肩、腰部、ももなどにおいてフルハーネスにより適切に支持する構造であること
- フルハーネスは、着用者に適切に適合させることができること。
- ランヤードを適切に接続したものであること。
- バックルは、適切に結合でき、外れにくいものであること。
胴ベルト型墜落制止用器具の場合は、以上の条件に加え、以下の条件も満たしていなければなりません。
- 墜落制止時の衝撃荷重は4kN以下であること。
- ランヤードの長さは1.7m以下であること。(墜落時に地面に到達することを防止するため)
- 作業床の高さは6.75m以下であること。
参考:日本安全帯研究会
6.75mまでは胴ベルト型墜落制止用器具が使用できますが、建設作業の場合、一般的には5m以上の場所はハーネス型墜落制止用器具が推奨されます。
胴ベルト型墜落制止用器具の場合、墜落時の衝撃荷重が全て腰に集中してしまいますが、ハーネス型墜落制止用器具は、衝撃荷重が身体全体に分散されるという特徴があります。
足場工事における墜落制止用器具の安全性
足場工事における墜落制止用器具の安全性について考えてみます。
足場工事の場合、墜落制止用器具や親綱のフックを手すり、あるいはくさび式足場の支柱のコマに引っかけることが多いです。
手すりに引っ掛ける場合、安全衛生規則に足場用墜落防止設備として手すりが挙げられています。
安全衛生規則
第五百六十三条
三 墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、次に掲げる足場の種類に応じて、それぞれ次に掲げる設備(丈夫な構造の設備であつて、たわみが生ずるおそれがなく、かつ、著しい損傷、変形又は腐食がないものに限る。以下「足場用墜落防止設備」という。)を設けること。
イ わく組足場(妻面に係る部分を除く。ロにおいて同じ。) 次のいずれかの設備
(1) 交さ筋かい及び高さ十五センチメートル以上四十センチメートル以下の桟若しくは高さ十五センチメートル以上の幅木又はこれらと同等以上の機能を有する設備
(2) 手すりわく
ロ わく組足場以外の足場 手すり等及び中桟等
引用:e-gov
手すりに引っ掛ける行為は労働安全衛生規則に記されている為、問題ありません。
では、支柱のコマはいかがでしょうか。
手すりのようにハッキリと記されている規則はありませんが、基本的に問題ありません。
なぜなら、労働安全衛生総合研究所が行った人体ダミーの落下実験で、「壁つなぎやひかえ等があれば安全」と結論付けているからです。
くさび緊結式足場の組立・解体時における安全帯取付方法の実験的検討
くさび緊結式足場の「くさび取付穴」に着目し、この穴に安全帯のフックを掛けた場合の組立・解体作業の安全性について、人体ダミーを用いた落下実験により検討した。
その結果、安衛則に従った構造の足場の場合、組立・解体を行う作業床の1層下に水平変位を拘束する壁つなぎやひかえ等があれば、安全帯を使用した組立・解体作業を安全に行うことが可能であることが確認できた。
引用:労働安全衛生総合研究所
また、手すりが安全で、それを支える支柱のコマが安全じゃないということは考えにくいです。
以上のことから、フックを引っ掛ける場所は、手すりでも支柱のコマでも問題ないと言えます。
フルハーネス特別教育
墜落制止用器具を使用する上で、作業員のフルハーネス特別教育の受講が義務付けられています。
高所作業を行う作業員のうち、「高さ2m以上の箇所で、作業床を設けることが困難な場所で、かつ墜落制止用器具のフルハーネス型のものを用いて行う作業」に該当する場合は、必須となります。
この特別教育は、作業員が正しい使用方法を理解して安全性を向上させるための教育です。
その内容は、4.5時間の学科と1.5時間の実技で構成されています。
具体的な内容は以下の通りです。
学科科目 | 内容 | 時間 |
作業に関する知識 |
|
1時間 |
墜落制止用器具に関する知識 |
|
2時間 |
労働災害防止に関する知識 |
|
1時間 |
関係法令 |
|
0.5時間 |
実技科目 | 内容 | 時間 |
墜落制止用器具の使用方法等 |
|
1.5時間 |
受講料金は、講習を受ける団体によってそれぞれですが、テキスト代などを含めて約10,000円前後です。
また、過去の従事経験から学科の1部を省略できる場合があります。
6ヶ月以上のフルハーネス型墜落制止用器具を着用し、2m以上の箇所で作業床が設置困難場所での従事経験があれば、「作業に関する知識」、「墜落制止用器具に関する知識」、「墜落制止用器具の使用方法」を省略することができます。
6ヶ月以上の胴ベルト型墜落制止用器具を着用し、2m以上の箇所で作業床が設置困難場所での従事経験があれば、「作業に関する知識」を省略することができます。
足場の組立て等特別教育受講者、またはロープ高所作業特別教育受講者であれば、「労働災害の防止に関する知識」を省略することができます。
高所作業に携わる人であれば役立つ知識が数多くありますので、早めの受講を推奨します。
墜落制止用器具の価格
墜落制止用器具の購入価格は、フルハーネス単品で17,000円~25,000円、フルハーネスとランヤードのセットで28,000円~35,000円でした。
また、胴ベルト型の墜落制止用器具は10,000円前後で販売されていました。
購入する際の注意点
購入する際、作業の高さがショックアブソーバーに記載されている落下距離を下回らないようにご注意ください。
落下距離はランヤードの長さやフックの取付位置によって異なりますので、作業環境や内容を確認して購入してください。
また、フルハーネスの使用可能質量と、ランヤードの使用可能質量が異なっている場合があります。
その場合は、小さい方を優先してください。例えば、フルハーネスの使用可能質量が100kgで、ランヤードの使用可能質量が120kgだった場合、フルハーネスの使用可能質量を優先し、100kgまでとしてください。
そして、実際に使用中に墜落して衝撃荷重がかかってしまった場合は、フルハーネスとランヤード両方を破棄してください。
一度衝撃荷重がかかった墜落制止用器具は、外観から判断できない損傷がある可能性が高く、安全が守られない可能性がありますのでご注意ください。
まとめ
安全帯の役割や特徴などについて解説いたしました。
- 2019年2月1日の労働安全衛生法施行令の改正により、「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に変更されました。
- 墜落制止用器具は、「胴ベルト型(一本つり)」と「ハーネス型(一本つり)」の2種類があり、「ハーネス型(一本つり)」を使用することが原則となります。
- 墜落制止用器具の役割は、墜落による重大事故を防止することです。
- 6.75mまでは胴ベルト型墜落制止用器具が使用できますが、建設作業の場合、一般的には5m以上の場所はハーネス型墜落制止用器具が推奨されます。
- ハーネス型墜落制止用器具は、衝撃荷重が身体全体に分散されるという特徴があります。
- 足場工事において、支柱のコマにフックを引っ掛ける行為は、労働安全衛生総合研究所が行った人体ダミーの落下実験で、「壁つなぎやひかえ等があれば安全」と結論付けています。
- 高さ2m以上の箇所で、作業床を設けることが困難な場所で、かつ墜落制止用器具のフルハーネス型のものを用いて作業する場合、フルハーネス特別教育の受講が義務付けられています。
- 墜落制止用器具の購入価格は、フルハーネス型墜落制止用器具は17,000円~25,000円、胴ベルト型の墜落制止用器具は10,000円前後で販売されています。
- フルハーネスの使用可能質量と、ランヤードの使用可能質量が異なっている場合は、小さい方を優先し、一度衝撃荷重がかかったハーネスやランヤードは再利用せずに破棄してください。
安全帯、墜落制止用器具の役割や特徴を理解し、足場工事に役立ててください。